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東京高等裁判所 昭和31年(ネ)2656号 判決

控訴人 国

訴訟代理人 河津圭一 外四名

被控訴人 三菱殖産株式会社

破産管財人 森良作 外一名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人代理人は、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め被控訴人等代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張の要旨は、原判決の事実に記載するとおりであるから、これを引用する。

当事者双方の立証及び認否は、左記の外は、原判決の事実に記載するとおりであるから、これを引用する。

控訴人代理人は新らたに乙第四号証の一、二、第五号証、第六号証の一、二、第七号証、第八号証の一、二、第九号証、第一〇号証の一、二、第一一及び第一二号証を提出し、被控訴人代理人は乙第五号証、第六号証の一、第八号証の一、二及び第一二号証の成立を認めるが、その他の右乙号各証は不知、と述べた。

理由

昭和二九年一二月二五日三菱殖産株式会社が東京地方裁判所において破産の宣告を受け、被控訴人等がその破産管財人に選任されたこと、神田税務署長が、三菱殖産株式会社が昭和二九年二月に支払うべき株主優待金を所得税法第九条第一項第二号の配当所得に該当するものとし、同年九月三〇日付をもつて、同会社に対し、右所得についての源泉徴収所得税の本税額五一万八二〇〇円及び源泉徴収加算税額一二万九五〇〇円を納付すべき旨の源泉徴収所得税徴収の告知処分をしたこと、は当事者間に争がない。

しかし所得税法第三七条には、配当所得の支払をする者は、その支払の際、同条所定の税額の所得税を徴収し、同条所定の日までに、これを政府に納付すべき旨が規定され、これによると、配当所得の支払をする者は、その支払(税法上支払と同視すべき行為を含む。以下同じ)をするとき、源泉徴収所得税を微収し、これを納付すべき義務を負うものであつて、その支払の事実がない限り、このような義務を負うものでない。本件の場合、控訴人は、「三菱殖産株式会社が右株主優待金として、二五九万一〇七四円の現金を支払う代りに、同額の同会社株式を交付した。」と主張するのであるが、このような株式の交付の事実を認めるに足りるなんらの証拠もないから、三菱殖産株式会社は右株主優待金についての源泉徴収所得税を徴収納付すべき義務を負はない。

してみると、源泉徴収所得税を微収納付すべき義務を負はない三菱殖産株式会社に対してなされた本件の微収告知処分は、重大且つ明白なかしを有する違法な処分として、無効であるといわなければならない。

控訴人は、「行政処分は、はじめから存在しない場合に限つて、無効となるのであるから、本件の徴収告知処分のように、処分として存在する以上、無効とはならない。」旨を主張するのであるが、行政処分が存在しても、それに重大且つ明白なかしがあるときは、これを無効と解すべきであるから、控訴人の右主張は理由がない。

以上により、本件の徴収告知処分が無効であることの確認を求める被控訴人等の本訴請求は、その他の点について判断するまでもなく、正当として認容すべく、これと同趣旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 角村克己 菊池庚子三 吉田豊)

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